顔のない軍隊 (エベリオ・ロセーロ)
教師を引退し、自らの密やかな楽しみを毎日の生活に見出している主人公イスマエル。
妻にこれを咎められるものの、彼自身はそれを止めることはできない様子。
老いたピーピング・トムの周り流れる、なんとも長閑な南米の時間。
しかし、イスマエルの生活の描写が重ねられるにつれ、そこに暴力の影が認められる。
彼の伴侶との出会いも、ある事件がきっかけだったように。
ある村人の失踪は、暴力との距離関係が壊れた事が原因であり、おそらくはそれを遠因としてイスマエルの故郷の村に、暴力が忍び寄って来る。
イスマエルを含む住民の平穏を少しずつ侵食し、最後は村を覆い尽くした暴力、そして死。
力の行使の主体性、正当性という「顔」はなく、武装勢力はただ、その暴力を振りまいていく。
仮に、「顔」があったとしても、その結果を甘受するしかない村人にとっては、暴力はただの不条理の強制でしかないことに、なんら変わりはないのだが。
内容が重くて暗い本を手にすることが多かったので、今週は違う毛色の本を読まなきゃ。
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